マージが ETH の供給に与えた影響について
マージとは、2022 年 9 月にイーサリアムネットワークがプルーフ・オブ・ワークからプルーフ・オブ・ステークへ移行したアップデートのことです。 この移行により、ETH の発行方法が変更されました。 以前は、実行レイヤー( メインネット)とコンセンサスレイヤー( ビーコンチェーン)の 2 つのレイヤーから発行されていましたが、 マージ以降は、実行レイヤーで発行されなくなりました。 それでは、詳しく見ていきましょう。
ETH を発行するコンポーネント
ETH の供給は、「発行」と「バーン」という 2 つの主要な要因に分けられます。
ETH の発行は、ETH を作成するプロセスで以前は存在しなかった仕組みです。 ETH を破壊して流通から排除することをバーンといいます。 発行とバーンの割合は、いくつかのパラメータに基づいて計算されます。発行とバーンのバランスによって、イーサのインフレ/デフレ率が決まります。
ETHの発行についての概要
- プルーフ・オブ・ステークに移行する前、マイナー全体で、1 日あたり約 13,000ETH を発行していました。
- ステーキングされている計約 1,400 万 ETH に基づいて、1 日あたり約 1,700ETH がステーカーに発行されます。
- ステーキングによる正確な発行量は、ステーキングされた ETH の総量に応じて変動します。
- マージ以降、1 日あたり最大 1,700ETH しか発行されなくなり、新たな ETH の発行総量は、最大で約 88%減少しています
- バーンは、ネットワークの需要に応じて変動します。 とある日に、平均のガス価格が 16Gwei 以上になると、バリデータによって発行される約 1,700ETH が実質的に相殺されるので、その日の純 ETH インフレ率はゼロ以下になります。
マージ以前(過去)
実行レイヤーでの発行
プルーフ・オブ・ワークでは、マイナーは実行レイヤーのみとやり取りを行い、最初に次のブロックを解決したマイナーがブロック報酬を受け取っていました。 2019 年のコンスタンティノープルアップグレード以降、ブロックごとの報酬は 2ETH になりました。 マイナーは、オマーブロック(最長または正規チェーンに含まれない有効なブロック)を発行しても報酬を受けました。 オマーブロックあたりの報酬は最大 1.75 ETH で、正規ブロックから発行された報酬とは別でした。 マイニングのプロセスは経済的に集中化された活動であり、これを維持するには、ETH の発行量を歴史的に高い水準に維持する必要があったのです。
コンセンサスレイヤーでの発行
2020 年に稼働を開始したビーコンチェーンでは、 マイナーに代わって、バリデータがプルーフ・オブ・ステークでネットワークを保護します。 ビーコンチェーンは、イーサリアムユーザーがメインネット(実行レイヤー)上のスマートコントラクトに ETH を一方向に入金することによってブートされます。ビーコンチェーンは、この入金をリッスンしており、ユーザーに対して新しいチェーンに同額の ETH をクレジットします。 マージが起こるまで、ビーコンチェーンのバリデータは、トランザクションの処理を行わず、基本的にはバリデータプールの状態についてのコンセンサスを形成していました。
ビーコンチェーンのバリデータは、チェーンの状態を証明し、ブロックを提案することで、報酬として ETH を受け取ります。 報酬(またはペナルティ)は、バリデータのパフォーマンスに応じて、各エポック(6.4 分ごと)に計算、分配されます。 バリデータの報酬は、プルーフ・オブ・ワーク時代のマイニング報酬(約 13.5 秒ごとに 2ETH)と比べて大幅に少なくなっています。これは、バリデータノードの運用にそれほどコストがかからないため、高い報酬は必要ないからです。
マージ以前の発行についての概要
総 ETH 供給量: 約 120,520,000ETH(2022 年 9 月のマージ時点)
実行レイヤーでの発行
- 13.3 秒あたり 2.08ETH と推定されています。*: 年間で約 4,930,000ETH が発行される計算になります。
- 結果、約 4.09%のインフレ率(年間 493 万/合計 1 億 2050 万)。
- *この計算には、正規ブロックごとに発行される 2ETH と、その期間におけるオマーブロックの平均 0.08ETH が含まれています。 また、ディフィカルティボムの影響を受けないベースラインブロック時間ターゲットである 13.3 秒を使用しています。 (参照元をご覧ください(opens in a new tab))
コンセンサスレイヤーでの発行
- ステーキングされた合計が 14,000,000ETH だと、ETH 発行レートは、1 日あたり約 1700ETH になります。(参照元をご覧ください(opens in a new tab))
- 年間で約 620,500ETH が発行される計算になります。
- 結果、約 0.52%のインフレ率(年間 62 万 500/合計 1 憶 1930 万)。
発行額の約 88.7%が実行レイヤー (4.09 / 4.61 * 100) のマイナーへ帰属しました。
約11.3%がコンセンサスレイヤーのステーカーへ発行されました (0.52 / 4.61 * 100) 。
マージ以降(現在)
実行レイヤーでの発行
マージ以降、実行レイヤーでの発行は行われなくなりました。 マージによってアップグレードされたコンセンサスルールでは、プルーフ・オブ・ワークはブロック生成に使用できなくなりました。 実行レイヤーのすべてのアクティビティは、「ビーコンブロック」にまとめられ、プルーフ・オブ・ステークにおけるバリデータによって公開、証明されるようになりました。 ビーコンブロックの証明・公開に対する報酬は、コンセンサスレイヤーで個別に計算されます。
コンセンサスレイヤーでの発行
コンセンサスレイヤーでの発行は、マージ以前から同様に現在も続いており、ブロックを証明して提案したバリデータには少額の報酬が支払われます。 報酬は、コンセンサスレイヤー内で管理されるバリデータ残高に積み立てられ、 メインネット上でトランザクションが可能な現行のアカウント (「実行」アカウント)とは別のイーサリアムアカウントに蓄積されます。そのため、他のイーサリアムアカウントとの自由なトランザクションはできません。 また、これらのアカウントの資金は、指定された 1 つの実行アドレス以外には引き出すことができません。
2023 年 4 月に実施された上海/カペラのアップグレードにより、ステーカーは引き出しが可能になりました。 ただし、収益/報酬(32ETH を越える残高)は、ステークウェイト(最大 32)として貢献しないため、引き出さない方がよいとされています。
ステーカーは、バリデータの残高すべてを引き出して、アクティビティを終了することもできます。 ただし、イーサリアムの安定性を確保するために、同時に終了するバリデータの数には上限が設けられています。
1 日あたち、すべてのバリデータのうち約 0.33%が終了できます。 デフォルトでは、エポックごとに 4 台のバリデータが終了できます(6.4 分ごと 4 台、1 日では 900 台) 。 バリデータ数が 262,144(218)台を超えると、65,536(216)台のバリデータが増設されるたびに、追加で 1 台のバリデータが終了できます。 例えば、バリデータが 327,680 台を超えると、エポックごとに 5 台が終了すします(1 日あたり 1,125 台) 。 アクティブなバリデータ数が 393,216 台を超えると、6 台の終了が許可されます(以降も同様です)。
多数のバリデータが引き出すと、ネットワークが不安定になる可能性があるため、終了するバリデータの最大数を 4 台に縮小し、「ステーキングされた ETH が一度に大量に引き出されること」を防ぎます。
マージ以降のインフレについての概要
- 総 ETH 供給量: 約 120,520,000ETH(2022 年 9 月のマージ時点)
- 実行レイヤーでの発行: 0(なし)
- コンセンサスレイヤーでの発行: 上記(マージ以前)と同じで、年間発行率約 0.52%(合計 1,400 万 ETH がステーキングされている場合)
年間ETH発行の純削減率: 約88.7% ((4.61% - 0.52%) / 4.61% * 100)
バーン(焼却)
ETH の発行とは逆に、イーサリアムでは ETH がバーンされるレートがあります。 イーサリアムでトランザクションを実行するには、最低手数料(「ベースフィー」)を支払う必要があります。ベースフィーは、ネットワークの混雑状況によって(ブロックごとに)常に変動し、 ETH で支払われます。ベースフィーは、トランザクションが有効に成立するために必要となり、 トランザクション処理中にバーンされ、流通から消滅します。
ロンドンのアップグレードで実装されたフィーのバーンに加えて、バリデータがオフラインになるとペナルティを課されます。さらに深刻なことに、ネットワークのセキュリティを脅かす特定のルールに違反した場合にはスラッシュされることがあります。 これらのペナルティにより、バリデータの残高から ETH が減少し、他のどのアカウントにも直接報酬として支払われず、事実上は流通から消滅することになります。
デフレ時における平均ガス価格の計算
上述したように、特定の日に発行される ETH の量はステーキングされた ETH の合計額によって決まります。 この記事の執筆時点では、1 日あたり約 1700ETH が発行されています。
指定された 24 時間内で、ETH の発行を完全に相殺するのに必要な平均ガス価格を決定するには、ブロック時間を 12 秒として、1 日の総ブロック数を計算することから始めます。
(1ブロック/12秒) * (60秒/分) = 5ブロック/分
(5ブロック/分) * (60分/時間) = 300ブロック/時間
(300ブロック/時間) * (24時間/日) = 7200ブロック/日
各ブロックは、15x10^6 gas/block
をターゲットとしています(ガスの詳細)。 1 日あたりの合計 ETH 発行量が 1700ETH であるとすると、発行を相殺するために必要な平均ガス価格(ガスあたりの gwei)は、次の計算式で求めることができます。
7200 blocks/day * 15x10^6 gas/block *
Y gwei/gas
* 1 ETH/ 10^9 gwei = 1700 ETH/day
Y
を次のように求めます。
Y = (1700(10^9))/(7200 * 15(10^6)) = (17x10^3)/(72 * 15) = 16 gwei
(有効数字 2 桁に丸める)
上記の最終ステップを再構成するもう 1 つの方法は、1700
を 1 日あたりの ETH 発行量を意味する変数X
に置き換え、残りは次のように単純化します。
Y = (X(10^3)/(7200 * 15)) = X/108
これは、X
の関数として単純化することができます。
f(X) = X/108
: ここでX
は、ETH の一日の発行量、そしてf(X)
は、新しく発行されたすべての ETH を相殺するために必要なガス価格あたりの gwei を表しています。
したがって、例えばX
(一日の ETH 発行量)がステークされた合計 ETH 量をもととして 1800ETH になったとすると、f(X)
(すべての発行量を相殺するために必要な gwei) は、17gwei
となります(有効数字 2 桁の場合) 。
さらに学びたい方へ
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